2020/09/23 17:58

今日は生地のトレンド(?)みたいなもののお話しです。

帽子に使う生地の仕入れは、生地メーカーさんからだったり、問屋さんを介してだったり、国内外問わず、様々なルートで仕入れています。ほとんどの場合生地見本帳やスワッチで確認しながら決めていきます。



先日、某生地メーカーさんの展示会でショールームにお邪魔しました。それに合わせていくつかの生地メーカー・コンバーターさんのショールームも一緒にまわる段取りにして、終日使ってじっくり都内を巡回してきました。

こういった新作商品のチェックと情報収集の為のショールーム巡りは、今の体制になってからは毎シーズン欠かさずに行くようにしています。これも勉強です。
新作の見本帳だけ送ってもらってもチェックは出来るのですが、(ネットショップで買い物をするのではなく)お店に行くのと同じでそこに予期せぬ発見があったり、刺激を受けるので単純に好きです。
今年は、コロナ禍の影響でスケジュールがだいぶ後ろ倒しになってしまいました。

こういった新作商品にはファッションのトレンドはもちろん、人々の消費マインドの変化や技術革新、ひいては世相まで、色々な影響が見え隠れしています。

今年は、昨年の今頃には思いもよらないような状況になってしまいました。
まさかスポーツメーカーやアパレルメーカーまでもマスクを作る世の中になろうとは去年誰が予想できたでしょうか...
(展示会ではクレ◯ズはじめ、マスク用の素材のコーナーもありました、人気あるみたいです。)

見る側の意識も変わりますから、当然見えてくるものもまた違って見えます。
この時代の節目にあって、生地を通して見えてくる、今の時代の流れ、、、について考えてみるのも面白いのではないでしょうか。

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1, リサイクル・サスティナビリティーへの意識が定着

ここ数年新作でリリースされる生地に、"リサイクル"、"低環境負荷"、"eco"、"エコフレンドリー" 、"循環型"、などの文言がよく目に飛び込んできます。これは展示会毎に徐々に種類が増え、今年もこの流れは一層加速しています。

これまでは色や素材を選べるほどにバリュエーションも無く、価格に対してアピールがそれほどあるわけでは無かった(私自身の意識が低くかったのも原因)ので、採用するには至りませんでした。

それが素材・織りの種類が増え、それなりに選べるようになってきました。
或いは、"ECO" をキーワードに新しいアプローチのある生地も。こういった流れはフレッシュで良いと思います。

ペットボトルから作る再生繊維として思い浮かべるのはパタゴニアのフリースなどでしょうか。パタゴニアのシンチラフリースが顧客から集めたペットボトルを使って1993年に初めて作られたそうなので意外に歴史があります。国内でもECOPET(帝人)に始まり、e&dress(東洋紡STC)、2019年には東レが新たに立ち上げたペットボトル再生繊維事業の新ブランド「&+(アンドプラス)」をスタートさせるなど、一つのカテゴリーとして定着しました。
天然素材でもリサクルウールの製品が増えたように思います。うちの別注商品でもこうしたリサイクルウールは使わせてもらってます。
ここ数年でそのバリュエーションを増やしてるSOLOTEX®︎はリサイクルではありませんが、石油系繊維を使わずに天然由来素材を使用することで環境負荷低減をうたっていたり。"エコ" の形も色々です。
海外だと後述するライクラカンパニーが、LYCRA Eco Made®︎(中国)を皮切りに今後リサイクル繊維を拡充するようです。
またECONYL®︎(Aquafil社 イタリア)のように明確なコンセプトを持った"ブランド"も出てきています。

もはやただリサイクルしている、というだけではなく、どう環境に良いか、どう世の中に貢献するのか、そこに一歩踏み込んでそれを付加価値として打ち出して行く、そういう段階に来ているように感じます。あっという間にこれがスタンダードなものになるかも。
不良在庫の大量破棄問題を抱えるアパレル業界のこうした動きは、今の時勢からすると歓迎されるべき動きだと思います。

2,  インビスタからライクラカンパニーへ、ハイテク素材に動きが?


↑ お馴染みCOOLMAXマーク、インビスタ時代のもの。現在は新しいマークに変更になっています。


皆さんはCOOLMAX®︎(クールマックス®︎)という名前を聞いた事があるでしょうか?

1986年米デュポン社によって開発された『吸水速乾性素材』です。その性能の高さから多くのアパレルメーカーに用いられている素材です。
しかしながら、4年ほど前まで生地メーカーさんから手に入るCOOLMAX®︎の生地といえば、それほど種類のあるものではありませんでした。
それがここに来て、COOLMAX®︎を使った生地の種類が大分増えてきました。
私自身「???急にどうした?やる気出したか?」と思っておりましたが、そこには繊維業界の大きな動きが背景にあります。

元々この生地を開発したアメリカのデュポン社が販売をしておりましたが、2002年からは同社のファブリック部門だったインビスタ社が独立してこの生地を販売権を持っていました。velo spica で採用している『SUPPLEX®︎』『THERMOLITE®︎』も同じインビスタ社の製品でした。
...でした、というのも今は中国系企業の山東如意にその繊維事業そのもの、上記含む複数のブランドごと買収されました。(2019年1月31日付で買収が完了)
現在は同社子会社のLYCRA COMPANY(ライクラカンパニー)が販売しています。
以下買収が決定した時点2017年10月31日付のWWD Japanの記事からの抜粋です。
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中略...デュポンは、現在世界の全繊維生産の6割を占めるポリエステル繊維を、世界で初めて工業化した企業だ。そのポリエステル繊維事業が、継承したインビスタから山東如意に移管されることは、世界の繊維・アパレル事業が国境と業態を越えた新たな再編時代へ突入することを示す。山東如意は「ライクラ」「クールマックス」など繊維では数少ないグローバルブランドを手に入れ、天然素材の主力であるウールと合繊、そしてアパレルまでを垂直統合する、新たな繊維とアパレルのコングロマリット企業になる。

 なおインビスタは世界最大手の一角を占めるナイロン繊維原料のナイロン66と強力ナイロン素材「コーデュラ(CORDURA)」、カーペット素材の「アントロン(ANTRON)」、また売却したポリエステル繊維原料の1.4ブタンジオールの知財権については引き続き保有する。

WWD Japan
https://www.lycra.com/en/

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これからはポリエステル繊維は中国を中心に製造展開されるようになりますよって言うことなんですが、これには良い面も悪い面もありそうです。


こうした動きも影響してか、昨今のニーズの多様化に対応する形でCOOLMAX®︎も新しい展開が見られます。
新たに加わるラインナップとして、

クールマックス®︎コアテクノロジー
クールマックス®︎オールシーズンテクノロジー
クールマックス®︎エアーテクノロジー

これ以外にも、

クールマックス®︎UPFテクノロジー、クールマックス®︎エコメイドテクノロジー、クールマックス®︎freshFXテクノロジーなど、クールマックス自体の通気性、吸水速乾性能と異なる機能性を持つ素材を掛け合わせて新しい付加価値を加えた商品も。

クールマックス®︎は今までは夏用の素材という認識でした。ですので生産されていた生地の織りも夏物の織り。
それでも冬場のスポーツや雪山に使って調子が凄く良いというお客様からのフィードバックも沢山頂いておりました。
上述のように従来のクールマックス®︎は夏用素材という位置付けでしたので、そのへんが微妙で冬場の製品でのご紹介がしにくい素材になってしまっていました。

それに対して、一つのブランドでも多面的な展開をしてくれるとかなりユーザーにも勧め易いし、ものを作る方も製品に使うのが楽しみになってきます。
こういった細やかなラインわけは大歓迎です。
同社が保有するSUPPLEX®︎など他のブランドでも同様の展開を期待してしまいます。そうなるのであれば今後益々楽しみ。インビスタ時代にはないフレッシュさがあります。
この事は期待も込めて良い点だと思います。


しかしその反面、今回のコロナ禍ではっきりと浮き彫りになったのが、日本、ひいては世界のものづくりがいかに中国に依存し過ぎているかって事。velo spicaのキャップは全て日本で生産しておりますが、原材料・染料など繊維産業の上流部分は中国である事も多く、影響はゼロではありません。

縫製工場に関しても先に中国がダウンした都合、その生産分の振替で国内工場は一時期パンク状態。さらには海外から生地が入ってこないわで、てんやわんやでした。

幸いウチはスタートから生産は国内限定にして工場や職人さんとしっかりコミニュケーションをとってきましたから、結果的には例年通り、もしくは例年よりむしろ多いくらいの生産量が確保できました。


やはり外的要因に左右され過ぎるのはいかがなものかと、身に染みて思う上半期となりました。

なるべく身近な国内で仕事を回し、コントロールし易い規模感 "スモールビジネス" でやってきた事は間違いは無かったし、これからもそうだと思います。

実は今年に入って国内生産に切り替えてるブランド・メーカーさんも沢山あります。一見拘りで国産に変えたかのように見えますが、その裏側にはそんな事情があるとか無いとか...

こと縫製に関しては今日の日本は後進的な立場にあり、クオリティと価格の面から言えば、国産はあまり経済的ではない&価格の割に実はお粗末、という事も理解しているつもりです。

それでもそこには意味があると思うからこそ、ウチはなるべくローカルなところで仕事を回して、なんとかやっていければ良いなと思っております。


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どうでしょうか。生地からも今の世相や移り変わっていく世界情勢がちょっと垣間見えたりします。

さて今後はどんな世の中になっていくのか。なんとかコロナを抜けた先の世界でもサバイブして行きたいものです。